ゆうくれない

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ケムリ研究室「砂の女」感想

安部公房の小説が舞台化するというので観に行った。

台本や演出が割と名前の聞くケラリーノサンドロヴィッチ氏だったし、

まあ変なことはしないだろうとそれなりの根拠の無い信頼感を持っていた。

どちらかというと、安部公房の作品が舞台化するのもそうそうなさそうなので半ば物珍しさもあった。と書きつつ、「友達」も上演しているので不思議なもんである。

こっちは、た組の加藤さんが台本を書いているので加藤ナイズされた内容になるんだろうなあとぼんやり思っている(友達の方はもともと戯曲なので本来なら作安部公房のはず)それはそれで楽しみでもあるので、観劇日まで公演が飛ばないことを祈る。

 

砂の女、ストーリーとしては昆虫採集をしにとある集落に来た男が村人に嵌められて女と暮らすことを強いられる。砂に埋もれつつある村は砂を掻き出す労力を欲しており、家から脱出する手段である梯子を外し、砂を掻く労働を強いる。ありとあらゆることは村の組合が仕切っている。やがて女と関係を持ち女が子宮外妊娠をしていることが発覚し病院に運ばれていく。梯子がかけられるが、男は脱出しない。

 

と、いうような内容と結末なんですが、最初は家に帰るため手を打っていた男はだんだん集落の環境に順応してしまい、とうとう脱出の意思が無くなると書いてしまえばそういう話です。

人間、最初は理不尽さに文句を言ったり改善をしようと試みるが、そのうち慣れてしまって当初の勢いは無くなり、理不尽な環境に順応してしまう恐ろしさを描いている と勝手に思ってます。

いつのタイミングでこれを公演しようが人類共通の課題というかそういうのなのでと思っていましたが、ちょうどコロナ禍といわれるあれやそれで割と良いタイミングでしたね。

最初は自粛で人と会えないのをどうにかしようとしていたものの、慣れてしまった人も少なくなさそう。個人的にはこんなバカげた状況を諦めてリスクを許容して、さっさと濃厚接触が許される風潮になってほしいですね。正月には地元に帰って友達とご飯行きたい。

 

内容としてはおおよそ良いのではないか。

個人的な好みとしてはもうすこし小劇場チックにしてほしかった感はあるが、

令和に安部公房をやるとこうなるんだろうな(プロジェクションマッピング的なのを使っていたり)

BGM担当していた方の民謡チックな歌はとても雰囲気が出ていて良かったです。

ああいう雰囲気にしたい気持ちは感じた。

思ったより役者陣が感情的だったので私の脳内妄想からすると意外でした。

安部公房はひたすら無機質な世界だと思っていたので、出てくる人間だいたいがうつろな目で会話してるんだと思ってた。あとギャグもやるんだという。

「電信柱」と聞くと別役実の名前が浮かび上がる不思議。

はやけに艶めかしい役割だと思ってたのであれで良かったんですが、思ったよりチャーミングでしたね。特に人格として尊重しないんですが(安部公房の登場人物は舞台装置のひとつくらいに思っているので)思慮が浅く世界が狭く哀れでしたね。でも多分そういう女性は現実にもたくさんいるんだろうな。

牛耳ってる組合もどういうことなんだろうとも思うんですが、あれは常軌を逸した管理社会的な形にして不条理な環境要因を作り出す装置として存在していると思うので細かいことは抜きにしたほうが良いのではないかと。

 

「順応」とは、時には必要だけども哀れでもありますね。